Inspirational Mind

2003.10.11 - 2011.04.11

パイロットフィッシュ

パイロットフィッシュ (角川文庫)

パイロットフィッシュ (角川文庫)

人は、一度巡り会った人と二度と分かれることはできない

文庫本の帯に書いてあった文中の一文。人間関係が続く続かないではなく、人の記憶の中から消えることはないということらしい。一緒にいた期間がたとえ短いものであっても、その記憶はずっと影響を与え続ける。だから別れることはできない。

主人公の山崎は精神を病んだ友達の森本にこんなことを言っている。 <<高校時代から随分と好き勝手言ったりやったりしてきたよなあ。人を攻撃したこともあったし、傷つけたりしたこともあっただろう。唯一自分に大切なのは感性であり、その感性を振り回して生きていけばいいと思い込んでいた。若いうちはそれで良かったんだ。だけどな、おれもいつからかそんな生き方をしている、あるいはしてきた自分に居心地の悪さを感じるようになった。>>

若い頃に言ったこと、誰かにしたこと、その場限りのことのように感じていることが全部記憶の中に蓄積として残っていて、何かの拍子で目の前に現れる。それはどんなに頑張っても消えることはなく、消そうとすればより鮮明になってしまう。だからそれと戦うのは無駄だと言う。

主人公は、過去のいろんな人の記憶が自分に影響を与え続けることをしっかり認識して、惰性や感性ではなく、自分の意志で人生を切り開いていく決意をする。が、最後にまた記憶のしがらみと戦うことになる。結論なんかないのだろう。

ノンフィクションを書いていた著者が「記憶」をテーマにしたときに、フィクションの方が書きやすかったから、ノンフィクションでは書けなかったからこの小説が生まれたのかもしれない。

なんか小説を読みたいと思っているときに友達に勧められ、何となく買った。2時間ドラマでも見るように軽く読めるし、文章も爽やかなので肩がこらない。テーマははっきりしているもの、ストーリーは王道のような気もするので、息抜きに読むくらいでいいかも。

山崎君、方向音痴でよかったね

記憶に残る。