Inspirational Mind

2003.10.11 - 2011.04.11

内側から見た富士通

内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス)

内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス)

 よくもこんな本が出版できたものだとつくづく思う。成果主義の導入や運用に対する批判、年功序列に溺れた組織、社員への批判、赤字続きにもかかわらずその責任を社員に押し付けた前社長の批判など、富士通にとって良いことなど何も書かれていない。ただ、同じ業界で働いている人間として、ここ数年聞いてきた富士通の悪い評判の原因がわかったような気がした。

 正直他人事ではない。富士通ほど極端ではないにしろ、日本企業的(日本人的?)な文化を持った企業に所属している人間であれば、この本に書かれている富士通社員の不満や不安に近い感情は誰でも持っているのではなかろうか。「先延ばし」「暗黙のルール」「馴れ合い」などのキーワードから生まれる弊害は、それなりに長く存在する組織であればどこでもありそうだし、その頂点は日本の「官」だろうし。

 同じ環境で仕事をし続けると、徐々に手を抜く方法を覚えていき、一度手を抜くと元には戻れなくなる。個人でも組織でも一緒で、手を抜いて仕事をしても問題がない場合はそれが普通になってしまう。人間関係にしても仕事にしても企業間の取引にしても、まったく同じことが繰り返されることはないわけで、その都度対応を練り直さなければいけないのだが、古い体質の組織はそれをすることは少ないのだろう。組織の規模が大きければ大きいほど、一つ一つの問題は軽視され、それに手間をかけることを「面倒だ」と感じるようになるのではないか。

 知り合いにも富士通の社員がいるので、読んでいて本気で心配してしまった。せめてもの救いはこの本が出版されたことだ。出版が許可されて店頭に並んでいるということは、富士通が出版を許可しているということ。富士通の経営層が過去の過ちを認め、本気で改善に取り組んでいてくれるとしたら、それが救いだ。

 現場の叫びがたくさん書かれた本なだけに、世の経営者すべてに読んでもらいたい。他人事ではなく、自分の事として・・・