- 作者: 大崎善生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/05/07
- メディア: 文庫
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客先からの帰りの電車の中で、涙をこらえられなくなった。
手で目を隠し、眠くなったふりをしながら泣いていることを隠した。
感極まって、ページを進められなくなった。
目指すものがはっきりしていて、努力する情熱も他人に勝る才能も持っているのに、
それに打ち込むための命の力が足りない。時間が足りない。そんな人生。
おれは楽に生き過ぎている。そんなことを考えながら読んでいた。
この本は、29歳という若さでこの世を去った、村山聖という棋士の物語。
愛嬌のある性格と風貌。誰にも物怖じもしない。
尊敬できる人は素直に、心から尊敬する。
なんでこんな人間があの若さで死ななければいけなかったのだろう。
命を削りながら名人を目指した村山聖の人生は異常なほど密度が濃い。
著者をはじめとする村山聖の周りにいた人々が、どれだけ影響をうけ、
そして愛情をもって彼に接していたか・・・
文章の中からそれが伝わってくる気がした。
「将棋の子」に比べると将棋自体の描写が多いため、
村山聖が指した美しい棋譜に感動することはできない。
でも、彼の歩いた人生とその過程で生まれたたくさんのエピソードは、
胸に刻み込まれるように、強く印象に残った。
著者は、書きたいというより、書き残さずにはいられなかったんではないか。
そう感じた一冊だ。
生きているうちにその存在を知ることができなかったのが、残念でならない。