Inspirational Mind

2003.10.11 - 2011.04.11

忘れていた味

日吉駅前、浜銀通りを入ってすぐのところに弁当屋があり、その弁当屋の脇に細い路地がある。路地に少し入ると、居酒屋のような佇まいの「とんかつ大将」が見えてくる。

最近は「和幸」や「さぼてん」のようなとんかつチェーンくらいでしかとんかつを食わなくなっていたこともあり、地元のとんかつ専門店である「とんかつ大将」には行ってみたいと思っていた。「和幸」や「さぼてん」のとんかつも決してまずいわけではないのだが、「外で食べるとんかつ」はもっとうまかったはずだと、ずっと考えていたせいもある。

阪神が優勝を決めようとしていた15日の夜、「とんかつ大将」は賑わいを見せていた。カウンター席が10席くらいのこじんまりとした内装で、とんかつや刺身を肴に酒を飲むのんべえと、日替わり定食を食いに来ている学生(慶応大があるからね)が肩を寄せ合うように並んでいる。居酒屋のような雰囲気なのだがちょっと違う。町の飯屋とはこんなものなのだろう。

俺はとんかつを食べるために入ったので、迷わずにとんかつ定食(1100円)を注文した。

待つこと7、8分。目の前にはどんぶり飯一杯と、豚汁一杯(これもどんぶりサイズ)、メインの皿にはとんかつとキャベツの千切り、トマト、ポテトサラダが乗っている。これらを全て受け取ったあとに、カウンターに店長が置いたものは、小皿に乗ったマグロの切り身が4切。

サービスいいじゃねーかおやじ、でも俺はもう学生じゃねーんだよと、心の中でささやきながら、おもむろに食い始めるおれ。食いきる自信はあまりなかった。

久々に食べたとんかつ屋のとんかつは、はっとさせられるほどうまかった。さくさくの衣にかぶりついた瞬間に口の中に広がる香り。肉のうまみはたたみかけるように後からやってくる。

忘れていた味だった。

気になったのでちょっと調べてみた。とんかつは普通、細かく刻んだラードとった油で揚げるのだが、最近のとんかつチェーンのとんかつは、植物性の油で揚げられているものが多いらしい。「和幸」や「さぼてん」で使われている油も植物性のものだ。

どっちが良いとか悪いとかではない。植物性の油は健康にもよく、味も決してわるくない。ただ、俺はラードで揚げられたとんかつが好きで、その味を忘れていたことは悲しいことだった。とんかつ以外にも「忘れてしまった最高の味」はあるのだろうか。

阪神が優勝を決め、星野監督の優勝インタビューに感動しながら、店のおやじに入れてもらったお茶を飲む。目の前の器がきれいに空いていたことは、言うまでもない。