- 作者: 大崎善生,森信雄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/05/15
- メディア: 文庫
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パイロットフィッシュを読んだ後、作者の略歴を調べたり、アマゾンでパイロットフィッシュのレビューを読んだりしていたら、以前に発表されたノンフィクションの評価がとても高かったので気になって調べてみた。
パイロットフィッシュからは想像もつかなかったけど、著者は以前に将棋に関するノンフィクションを2冊出していた。重度の腎臓病を患い、29歳の若さでこの世を去った天才棋士の生き様を綴った「聖(さとし)の青春」と、ここで紹介する「将棋の子」。著者が40歳過ぎまで日本将棋連盟で働いていたことを知ったのも、この本を手に取ってからだ。
「将棋の子」の舞台は奨励会。プロ棋士を目指す若者(子供?)達がしのぎを削って争う修行の場だ。奨励会には年齢制限があって、21歳までに初段、26歳までに四段にならないと奨励会を去らなければいけない。ちなみに、プロ棋士と呼ばれている人たちは四段からで、四段になると給料や対局料がもらえるようになる。
話は一人の奨励会を去った青年の話を中心に、著者の自伝的な内容も含みながら薦められていく。挫折した人が中心なので、とても切なく、悲しく、残酷な話が多いのだが、救いがない訳ではない。暖かい視点で若者たちを見守りつつ、自分に力量があれば奨励会員の側にいたかったであろう著者の奨励会員への羨望や尊敬の念が伝わってくるような気がする。
「おれにはこれしかない」と思ったからといって、みんなが同じように努力できる訳でもないし、努力できる能力も半分才能だ。プロにとって(人にとってかな)、こだわりは重要であるように思えるけど、そのこだわりが時代に合っていなかったり、力が伴っていなければ何の価値もなくなってしまう。少なくとも、プロの世界では。
ただ、それぞれが将棋に命を賭けてきたことは事実で、その描写には胸を打たれる、ってか泣ける。ほんとうに。
棋士としての才能に憧れていた著者は、「かかずにはいられなかった」ノンフィクションを評価され、フィクションでも才能を発揮しているように、見える。
人生は、不思議だ。